音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

梅咲けば、桜 2 (スティーリー・ダン : Steely Dan)

2011.03.01

 (前回より続く)

そもそもタンゴという音楽はどんな音楽なのだろう?

 音楽学辞典やウィキペディア的に解釈すると…19世紀後半のアルゼンチンの首都ブエノスアイレスと、ウルグアイの首都モンテビデオで生まれた4分の2拍子の音楽。


大概の西洋音楽などが2拍目4拍目の“後打ち”のバック・ビートであるのに対して、タンゴは、1拍目3拍目にビートの強拍を置く“先打ち”のフロント・ビートである。

ブエノスアイレスとモンテビデオ双方に流れているラプラタ川周辺の川原で、欧州からの移民や、地方から都会に出てきた労働者が、慣れない土地での少ない娯楽として発明したダンスの為の音楽として生まれた、というのが通説だ。

 当初は、男性同志の、闘舞を想わせる荒々しいダンスだったらしいが、酒場や娼館で女性相手にも踊るようになり、20世紀初めには、それがヨーロッパに伝えられ、主にパリで、新しい社交ダンスとして人気を得た…

パリでうければ国際的な流行になるのは現在以上の時代だから、タンゴは世界に浸透し、そのダンス・ミュージックとしての音楽のほうも、ヨーロッパの管弦楽団などが、柔らかいアレンジで演奏するものに変わり、タンゴのイメージを支配するようになった…

確かに、僕個人の記憶でも、タンゴというと、アルフレッド・ハウゼ管弦楽団などが演じる「青空」や「ラ・クンパルシータ」といった優雅なストリングスとバンドネオン(押しボタン式手風琴)の音が印象に残るコンチネンタル・タンゴのイメージが強く、髪をなでつけ、礼服とロング・ドレスに身を包んだ男女が、セクシーに優雅に舞踏するといった光景だった。