音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Sheet Music. その5

2015.12.06

(前回から続く) ダリル・ホール&ジョン・オーツ初来日の時のリハーサルを遇然見聞した折に、彼らがリラックスする為にやったボックス・トップスの古いヒット曲「あの娘のレター/The Letter」。

この曲は、テネシー州メンフィス出身らしく、白人のビートルズ風ルックスのバンドなのに凄く黒人R&Bのテイストを持っていた・・・という音楽的な興味以上に、1960年代の地方高校生レベルの外国語聴き取り能力の僕でも、つまり、中学や高校で、文法その他は学んでも、ディクテイション(聴き取り)やカンバセーション(会話)の授業など受けた事もない少年でも、AMラジオから流れてくる歌声の歌詞を簡単に書き記す事ができる程の平易な歌詞が魅力だった。

“飛行機のチケットをはやくくれ。それが無理なら、一番速い列車のチケットをくれ。心寂しい日はもう終わり。俺はホームタウンに帰るんだ。俺のベイビーが手紙をくれたのさ”といった一番の歌詞は、ラジオで2度聴いただけで、この僕が書き写せる程簡単なもので、そのかわり、半世紀経った今でも忘れない。

ちょっといい天気で、ベランダで軽快に洗濯物を干している時などに“Gim me A Ticket For Airplane, Ain't Got A Fast Train, Lonely Days Are Gone, I'm Going Home, My Baby Just Wrote Me A Letter・・・”という歌詞が鼻歌で出てきたりする。

中学生の頃通っていた英語塾の吉岡先生が、「英語の詩は、各節の末尾の音が、韻を踏むように、同じ音の単語末尾が選ばれている」と教えてくれていた事を、18歳になってやっと、ラジオから流れるポップス曲の詞を書き取っている時に思い出し、実感、として理解するとは・・・

エアプレインのnとファスト・トレインのn・・・それでも、これだけ簡単な言葉で、意味を通し、リズムを造り、リスナーの気持ちを把むのだから、ロックやポップスの作詞者やバンドのクリエイター達は大したものだと、今更ながらに思う。