音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

梅咲けば、桜3 (グレイス・ジョーンズ: Grace Jones)

2011.04.03

 (前回から続く)

 少なくとも2000年代に入ってからの世界的なタンゴ人気とブームを支えているのは、やはりアストル・ピアソラの存在だ。

一般に、モダン・タンゴの巨匠、と呼ばれる事の多いアストル・ピアソラ(Astor Piazzolla)は、アルゼンチンに生まれた作曲家/編曲家/演奏家だが、自国で普通のタンゴ・ミュージシャンとして活動している時は、伝統的なタンゴの大御所達から反抗的だとかはねかえり者だとか叱られ続けた、つまりはみ出し者で、その理由は、ほとんど独学で吸収したジャズやクラシック、時にはロックンロールの要素まで平気で作曲の手法の中に取り入れ、それまでの伝統タンゴではあり得なかった楽曲を次々に作っていたからである。

結局、アルゼンチンには居られなくなって、フランスのパリに移り、前衛を好む空気は他よりは豊かなパリの水に合ったのか、パリ時代には、もっと奔放な楽曲を作り、それがある程度認められ、腕も名も上げる事になった。

しかし、本当にアストルが天才であり革命児であり闘士であった、という評価が高まったのは、1992年に亡くなって以降の再評価時代に入ってからだろう。

没後5年とか10年といった記念周期で、彼の作品や演奏が掘り起こされ、CD化されもしたし、若手のバンドネオン奏者も人材が豊かに育ち、その人達がピアソラ作品を好んで取り上げた事で、やっと一般に浸透する土壌も出来上がったというのが正直なところだ。

そういう意味で、没後にヒーロー人気が本物になった同じアルゼンチン出身のチェ・ゲバラと重ねて、思い出す事が僕にとっては多い。