音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その4

2016.05.20

 (前回から続く)映画『ビギナーズ』(邦題)は、ジャズやR&Bが本国で最先端をいくサブ・カルチャーとして定着し、そのアメリカ文化が世界に波及した時を見事に描いている。

第二次世界大戦が終結したのは1945年だが、その勝者連合軍の圧倒的リーダーだったアメリカ合衆国は、治安と防衛の為にヨーロッパ各国や、敗戦国のドイツや日本にも大量の軍隊を駐留させたり派遣したりしたが、特にイギリスやフランスには黒人兵が多く、その中には、本業がミュージシャンという人も多かったそうだ。

大戦中は、とてもそんな余裕は無かっただろうが、例えばパリやロンドンの警備で駐留している若い米軍兵たちは、勤務あけの夜になると、小さなステージのあるカフェやバーに出向いて、そこに置いてある楽器で、即興のバンド演奏をやったりしていた。

中には、そのままロンドンやパリに届まり、定住し、1950年代後半になって、レコーディングをしたりライヴ・ツアーをやったり、つまり、ヨーロッパでプロ・デビューした人も少なくなかったのである。

 正直な話、大戦前のアメリカは、戦後に比べて人種差別は激しく、黒人のやっているジャズだのブルースだのR&Bだの、そんな音楽の存在を、少なくとも普通の白人は、ほとんど知らなかった。