音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その3

2016.05.12

   

 (前回から続く)アルバム『ヤング・アメリカンズ』('75年)は、ジョン・レノンと短時間で共作録音した曲「フェイム/Fame」が初の全米No.1シングルになったおかげで、デヴィッド・ボウイの名をより広く知らしめる代表作になった。

しかし、タイトル通りにアメリカ寄りのサウンドとボウイのルックスの大変化のせいか、それまでのブリティッシュ・グラム・ロックの創始者とあがめたネオ・ファンが数多く離反したのも事実。

その為か、傑作と呼ばれるより実験作と呼ばれる事の方が多かったように記憶する。

当時の日本の代表的ロック雑誌『ニューミュージックマガジン』や『ロッキンオン』『ミュージックライフ』等のレビューや記事を思い起こしてみたが、秀作とか傑作、といった表記はひとつも無かったように思う。

 『ヤング・アメリカンズ』後半に、ビートルズというよりジョン・レノンの代表的楽曲「アクロス・ザ・ユニバース」のボウイ版が収録されている。ビートルズの楽曲のカヴァーは、その70年代半ばにして既に数多く存在したが、まさかあのグラム・ロック・スターのボウイがビートルズ・ナンバーをレコーディングするなんて予想した人は少ない。

それゆえに、この「アクロス・ザ・ユニバース」のカヴァー・・・そして、タイトル曲の「ヤング・アメリカンズ」の歌詞の中に登場するやはりJ・レノンのビートルズ時代の代表的楽曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の歌詞の一説“I Heard The News Today Oh Boy”の引用・・・そして更に、J・レノンとの共作「フェイム」・・・と、まるでJ・レノンへのリスペクト(尊敬)を核にしたアルバムという風に見えるのも『ヤング・アメリカンズ』の特色だろう。

なんだ、あのデヴィッド・ボウイも、僕がトランジスター・ラジオにかじりついて「抱きしめたい」や「ツイスト&シャウト」をオン・エアしているラジオ局を毎晩捜していた高校一年生だったように、あるいは、ビートルズが主演した『A Hard Day's Night(ビートルズがやってくる、ヤァ、ヤァ、ヤァ)』や『Help』、そして、『Let It Be』といった映画を、劇場の主があきれる程何度も通って、スクリーンに喰い入るように観た少年だったんだ、とちょっと親近感を持ってみるようになった。