音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その31

2018.7.8

 (前回から続く)

ジャンヌ・モローの訃報を聞いて、予感もしなかった映画『死刑台のエレベーター』を思い出してしまい、ぼんやりしている内にフランス・ギャルの訃報が届き、1950年代の末期から'60年代の半ばまでの記憶が蘇ってしまった…2018年の初頭から、僕の頭の中の記憶層のようなヒダは、予期せぬ出来事に戸惑ってしまい、これ以上?かつての新宿コマ劇場裏手にあった喫茶『巴里』での経験など、これ以上思い出す事もあるまい、と思いこんでいた。

 ところが、どうだろう?テンプテーションズのデニス・エドワーズ(Dennis Edwards)が亡くなったというニュースが、2月1日に飛びこんできたのである。

またしても、元コマ劇場、現東宝シネマビル屋上で時報の炎と吠え声を吐くゴジラに目をつけられ、あまり性質(タチ)の良くない追想病に導かれているとしか思えない。ゴジラの祟りか?と思う前に、もう、ある時はゴジラの吠え声以上の迫力だったデニスのシャウト・ヴォイスをいくつも思い出してしまった。

 テンプテーションズ(Temptations)、愛称テンプスといえば名曲「マイ・ガール」である。

この曲が大ヒットしたのは1964年の12月、東京オリンピックの余熱もまだ冷めやらぬ日本でも、ビートルズの曲をしのぐ人気だった。

高校に入ったばかりの僕も、この曲で初めて、アメリカのミシガン州デトロイトに凄い音楽がある事を知り、以来、デトロイトは特別な異国の街になっていった。

 「マイ・ガール」は、日本のCMやドラマにも何度か登場したし、'92年には同名の映画も生まれた。『ホーム・アローン』で注目された少年俳優マコーレー・カルキンが、幼き恋を好演し、人気に染メウチしたGood Americaを代表する映画…「マイ・ガール」は、大ヒットした年から半世紀近く経った2018年5月19日、英国のハリー王子とメーガン・マークルさんのロイヤル・ウェディングの一般人も招いた披露パレードでも、コーラス隊が歌い、ゲストたちも大合唱する曲となった。

テンプスを始めダイアナ・ロス&シュープリームス、スモーキー・ロビンソン、フォー・トップスなどスターをどんどん送り出したMOTOWN(モータウン)はアメリカを代表するレコード会社となり、今でもその伝説は続いている。

花嫁メーガンさんが黒人とのハーフの米国人女優であるとはいっても、黒人ヴォーカル・グループの曲が、英国皇室の結婚式に登場するなんて思いもしなかった。