音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その30

2018.4.15

 (前回から続く)

久しぶりに新宿歌舞伎町へ行った。その昔火を出して燃えてしまったコマ劇場は、現在では、新しい東宝ビルに生まれかわっていて、若い人達は、ここの大映画館で、黒澤明や三船敏郎や植木等が大変な数の客を集めた事を知らず、その裏手にある地下アイドル専門のライヴハウスに通い、ショーの合間に新装ビル地下で冷やし中華のような讃岐皿うどんを食べ、ファンのリッチなおじさんと一緒の時は、屋上近くのフロアーにあるホテル横のゴージャスなティールームで名前も覚えられないカフェ・オ・レを飲み、一日に4回、時報の代わりに火を吹き、凄味のある声で鳴くゴジラを見て「キャーッ」と騒ぐのである。

そういえば、黒澤大監督巨匠の前に、東宝映画を有名にし、ビルを建て、パーラーの名店を開くに至らしめたのは怪物ゴジラだった…と思い出しながらエレベーターに乗り、火を吹いて新装し、生まれかわったモダン・シネマ・ビルに、火を吹くゴジラの夕方5時の時報を僕に見せる為にここを打ち合わせ場所に選んだのか?と、仕事相手の頭の中を少し疑った。

 予定通り打ち合わせを進め、その途中でゴジラの炎つき雄叫びを鑑賞し、ホテルに滞在する中国富裕層子弟に独占されている混んだエレベーターを避けて、今度はエスカレーターで下の階へ降りていくと…ちょうど映画の上映時間の切り換え時。大量の観客がドアを開いて押し寄せてきた。

それぞれ階によって収容人員も異なるから、この階で上映されているのは二番手か三番手かな、と思って確かめてみたら、才女キャスリン・ビグローの新作『DETROIT(デトロイト)』の封切りだった。