音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その29 [2/2]

 後年、このフレンチ・ポップスの古典となった曲が、ちょい悪オヤジの代表で、シンガー/作曲家/映画監督と、マルチ才能の源泉と言われるセルジュ・ゲーンスブールが作った曲で、恋も知らないのに恋の歌を唄っているお人形のような娘、という皮肉に満ちた曲であり、フランス・ギャルは、プロデューサーに言われるままに録音した…と思いきや、自ら望んでこの曲を選んだと知らされた。

難しい事を言うなら、19歳のちょっと手前で、芸能の中で自分が演じる人形役を醒めた目で観て判断と選択をしていたという事か? 後に、山口百恵が、宇崎竜童に自身で依頼して、「絶対絶命」など一連のドスの効いたダークなロック曲を連発し、“アイドルなのに…”と世評を二分した原点が、このフレンチ・アイドルには既にあったような気がする。

ちょい悪オヤジのゲーンスブールの異才ぶりを語る時に、この曲の事がよく取り上げられるが、ちょい悪アイドルのフランスの、かなり悪くしたたかな相性の事はあまり人の口に上らない。

 人の口を封じてしまうのは、ルックスを変化させながら、時代その時の“ルックス”をちゃんと提示している一流先端アイドルの姿を見せてきたのも大きな要因だ。

 1月7日に、彼女が亡くなった直後に、大型CDショップが、いち早く“フランス・ギャル紙ジャケット展”を開いたのを観たら…ショート・ボブ、ワン連センター分け、外巻きセミ・ロング、前髪そろえのシンガー&ソングライター風ロング、と各時代の流行(はや)りの髪形がずらり!

少なくとも、1966年から現在までの女性誌を飾った髪形の全てがここにある。享年70歳の直前ですら、白髪混じりの髪で、アフリカン・テイストを加味したボブで、ちゃんと正面を見据えて、アルバムのジャケットを飾っている。

CDショップのフロアーに居た、皆一様にエクステ睫毛(まつげ)とボブの若い女性群が「わっ、カワイイ!この人誰?」と声を上げている。

この人が昨日、死刑台のエレベーターに乗って先人達に会いに行った人、とひとりで呟く七草の午後。(次回へ続く)

今回タイトルに借用したのは、フランス・ギャル自身の'64年の曲です。