音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その29

2018.2.19

 (前回から続く)

 2017年の年の瀬に、ジャンヌ・モローの訃報を聞き、一気に'50年代末期に気持ちが帰ってしまった事は既に記した。

ビットコインの高騰ぶりと第二期バブル経済とか言われている年明けから、将来の事を、少しは真面目に考察しようなんてガラにもない事を思ったりしていたところに…今度はフランス・ギャルの訃報が届いた。

France Gall。ファースト・ネームにフランスを冠するこの女性。イザベル・ジュヌヴィエーヴ・マリ・アンヌ・ギャル、と本名を綴ると、そのままパリのシャンゼリゼを歩いているような錯覚に襲われる。

現在は撤退してしまったが、銀座にまだフランスのデパート〔プランタン〕があった時、フロアーを歩いていて思い浮かべるのは、ジャンヌ・モローでもカトリーヌ・ドヌーヴでもアラン・ドロンでもジャン=ポール・ベルモンドでもなく、フランス・ギャルのヒット曲「夢見るシャンソン人形」での歌声と、シングル盤のジャケットを飾っていたショートのボブ・ヘアーの彼女の表情だった。

亡くなった今年で70歳。ちょうど同じ年代の人で、僕が高校2年生の1965年、ビートルズとローリング・ストーンズにショックを受けている最中に、全く別のカルチャー・ショックを投げかけてきた曲だった。

 いつも通っているレコード店に、ローリング・ストーンズの「ひとりぼっちの世界」とこの「夢見るシャンソン人形」を注文に行ったら、店のお姉さんが「あれ?こんな曲も聴くの?こういう娘が好みなの?」と笑いながら問う。

いや、そういう事じゃなくて、この上手いのか下手なのかよく判らないけど、このどこかパンチの効いた声で歌うこの曲のなんか新しい所が好きなんだ、と答えようとしたが、めんどうだから、やめた。