音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その28 [2/2]

この常磐(ときわ)の葉は、六本木の近所の麻布にある古いお寺にある樹の葉っぱで、麻布近辺に数多くあるお寺にやたらと詳しく、毎日お寺巡りをしている英国大使館に勤める大使館員からもらったものだ。

近代的なビルの谷間にある寺の樹の葉なのに、とても日持ちがいい。いつもお正月明けの節分あたりまで、お皿代わりに使わせてもらっている。

そんな僕の慣習というより奇行を知って「君にかかると、神も仏もないね」と、流暢な日本語で笑い話すその英国大使館員…おカタイ仕事で、支し障りがあるので、仮にトニーと呼んでおこう・・・そのトニーとは、ジャズもソウルもヒップホップもレゲエも自然にやってしまうサックス奏者ブランフォード・マルサリスのライヴで知り合って、なぜか気が合ってしまって、親しくつき合う友人である。

黒人とスコットランド人とのハーフで、休日には、3本線のアディダスでヒップホッパーになり、勤務日には、ビシッとブランド・スーツでキメるダンディーな男。5か国語を話し、クラシック音楽にもジャズにも精通し、言うまでもなく、世界の政治情勢や宗教闘争の事も教えてくれる文化人類学の先生みたいなインテリだ。

休日には、マイルス・デイヴィスやブランフォードのプログレッシヴなユニット、バックショット・ルフォンクの音をアイフォンで聴きながら、港区内のお気に入りの寺を回るのが極上の楽しみだという。

 「なんで仏教徒でもないのに、お寺が好きなの?」「君だって、キリスト教徒でもないのに、古い教会に入って、ヘッドフォンで、エニグマやサラ・ブライトマンを聴くとハイになる、って言ってたじゃないか」「なるほど。最近はピンク・フロイド聴いてるけどね」「ピンク・フロイドはお寺の方が合うよ」
 どっちが外人で、どっちが日本人だ?

 結局、マッシヴ・アタックの「セイフ・フロム・ハーム」のミュージック・ビデオは、映画『死刑台のエレベーター』のシーンにそっくりだね、という事で話は落ち着いた。

 トニーとの、最近のそんな会話を思い出しながら、イルミネーションの降り注ぐ道をいき、ジャズ・クラブ・レストランの戸を開けると…ジャズ風に演奏される「ジングル・ベル」のような曲が大きな音で鳴り、テーブル席には、デコレーションだけ派手な料理が並び、おめかしした客が、クリスマス・ツリーのラベルを貼ったワインをグラスに注ぎながら躰を揺らしていた。

「これじゃハイにならない」と胸の内で独り言をつぶやき、明日、「トニーに電話しよう」と重ねてつぶやいた。(次回へ続く)

※今回も無断でタイトルに借用したのは、レオン・ラッセル'74年の作品です。