音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その26

2017.10.24

 (前回から続く)

ジュリアン・テンプルに、デヴィッド・ボウイが、ドラマーの名前をメモした時の事を聞いた時、僕はボーッとして、やはり先ず、あの変換期の傑作アルバム『ヤング・アメリカンズ』を思い出していた。

 今でこそ、アメリカのソウル・ミュージックの名作を数多く生み落としたニューヨークとフィラデルフィアのレコーディング・スタジオを使い分け、そのスタジオに馴染みの秀れたドラマーをリズムの要に選ぶというのは、珍しい作業ではない。

しかし、1970年代半ばの、イギリスのグラム・スターが、そのアイデアを万年筆でメモっていた…という事実は、今考えても刺激的である。

 そんな事を思って、30年近く経た今、同じように頭脳のヘルパーが必要が如くボーッとしていたら、フランスの俳優アラン・ドロンが引退するというニュースが聞こえてきた。

 それと同時に、ボウイが、どんな文字書体でメモをとっていたのか、という脳内質問と映画『太陽がいっぱい/Plein Soleil』の中で、ドロン扮するトムが、他人のサインの練習をするシーンとがぴたっとピントを合わせてしまった。