音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その24

2017.08.30

  

 (前回から続く)

 『ビギナーズ/Absolute Beginners』の監督ジュリアン・テンプルのインタビューに割りあてられた時間はわずか30分だった。

封切り前の多忙な時に、ヨーロッパ各国の映画ジャーナリストがわんさと押しかけ、ハリウッドを始め世界中の映画配給会社の凄腕買付け人達が彼と商談しにやって来ている中で、極東から来た音楽取材者に割く時間なんて、あった方が不思議である。

もっとも、レセプションで、デヴィッド・ボウイの顔も見たし、思いがけず、キンクスのレイ・デイヴィスと至近距離で話が出来たし、余は満足じゃ、といった感じで、少し緊張も抜けた感じで、ジュリアンと会い握手だけ真面目にしていた。

 次から次へのインタビューの応対で、少し疲れた風のジュリアンは、聞きもしないのに、『ビギナーズ』をなぜミュージカル仕立てにしたのか、を話し始め、それは、1958年頃のアメリカのミュージカル映画『ウエスト・サイド物語』に強いショックを受けたから、うんぬんかんかん…そんな事は想像ついてるよ、と心の中で呟きながら、僕はメモを取って…いや取っているふりをしていた。

 突然ジュリアンが「君はなんでペンを2本使っているんだ?」と、ミュージカルの話をうち切って、尋ねてきた。

「えっ?」と驚いた僕は、僕の少しなめた様子に気づき、ジュリアンが怒ったのか、と思った。

聞き直すと、同じ質問を、更に大きな声で尋ねてくる。