音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その24 [2/2]

 僕は、インタビュー時に、頑丈なノートと金色ボディのボールペンと、持ち歩き用のカートリッジ式の万年筆を使っている。

ボールペンの方は、親父が、川柳の投稿コンテストで、新聞社から何かの賞をもらった時の賞品で「こんな太書きのペンは嫌だ。お前使うか?」とくれたモノだ。

万年筆の方は、年下だけど音楽業界の先輩である会田裕之が、誕生日でもないのに「何か御礼がしたい」と言ってプレゼントしてくれたモノだ。

名門名誌の『ミュージック・ライフ』の編集者だった会田は、渋谷のロック喫茶で仲良くなった友人だが、運転の名手で、僕の引っ越しを2度もやってくれただけでなく、ロックの細部までいろいろと教えてくれた人だ。 フリーの評論家に転じたが、その道では先輩だった僕が、いろいろと教えた、と思いこんでいたらしい。

「同じもらうなら、プラチナの新作の3776の万年筆がいいなあ」と、高いモノを冗談で言ったら、本当にプレゼントしてくれた。

 インタビュー時に、一応、当時最新のSONYウォークマン・プロフェッショナルを持っていったが、あまり使った事がない。

万年筆を、会田裕之の愛称そのままに“ヒロちゃん”と呼び、ボールペンはボディの色そのままに“キンちゃん”と呼び、一言声をかけてからインタビューを始める。

親父もヒロちゃんも故人で、その習慣儀式をやる時、少しセンチメンタルになることも、最近はある。

         SONYウォークマン・プロフェッショナル                               プラチナ万年筆 3776





ICレコーダーを使うのが当たり前の最近の若い人からは「なんで?」と嘲笑気味に聞かれるが、「アーティストの肉声をネットに売り飛ばす不良がいるから、アーティストの中にはいやがる人も多いんだ」と答えると、急に真面目になって沈黙してしまう。

「金色のペンの青インクで自分の質問をメモり、万年筆の黒インクで相手の応答をメモると、後で見やすくて、不思議に答を覚えちゃう」。若者更に沈黙。

 同じような事を、ジュリアンに、稚拙な英語で説明すると、なんとか通じたらしく、彼は大きく頷いて「ボウイが、やはり2本のペンを使って、アンディ・ニューマークやデヴィッド・サンボーンの名前を紙ナプキンにメモしていたんだよ」と話し始めた。

「えっ、何の話?」と慌てて聞く僕。おかげで、インタビュー時間は大きく延長してしまい、問題になった。(この話次回へ続く:文中敬称略)