音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その22

2017.06.21

    

 (前回から続く)

 キンクスのアルバムを何枚か棚から引っ張り出してしまったおかげで、3月のとある日から約一ヶ月ばかりキンクス漬けになってしまった僕は「全くデヴィッド・ボウイは罪な男だぜ」と独り言をブツブツ呟きながら、キンクスのヒット曲を寄せ集めたベスト・アルバム『Ultimate Collection・Ⅱ』をくり返し聴き、数日、どちらかというと無駄な時を過ごしてしまった。

なにしろ、ボウイのカヴァー・アルバム『Pin Ups(ピンナップス)』に入っているキンクスの曲「Where Have All The Good Times Gone」は、彼らの有名なヒット曲「Till The End Of The Day」のシングル盤のB面に収められていたマニアックな曲。普通クラスのキンクス・ファンなら忘れている曲である。

 しかし、普通ではないキンクス・ファンであった亡き同級生の成田は、1966年に発売になったそのシングル盤を、故郷の町のレコード店では入手できないからと、わざわざ神戸の港近くの、外人の船員さんが外国の最新レコードを運びこんで売り、その代金で他のレコードを買う…という妖しくも美しい、しかし怪しくも貴重なレコード店まで買いに行ったのである。

受験直前の高校3年生が、そんな馬鹿な事をしていていいのか、とさすがに同じ位馬鹿な僕に注意されたが、その僕に、彼は「三日間だけだぞ」と厳重注意のレスポンスをして、本当に貸してくれた。