音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その21

2017.05.10

 (前回から続く)

 3月のとある日の午後、TVのニュースを観ながら、猫のご飯を作っていたら、CMのタイミングで聴き覚えのある曲が流れてきた。

古い洋楽のロックの曲だが、曲名を思い出す前に、まるごと覚えてしまっているらしい歌詞がすいすいと出てきて、いつの間にか、一緒に唄ってしまった。

あれ?この曲なんてタイトルだったっけ…ああ、そうだ、最初にくちから条件反射のように出てきた「Set Me Free」だ…えぇっ?なんで今頃、Kinks(キンクス)のこんな古い曲がCMに使われるの?と、しばし呆然としている内に、同じCMがまた現われ、それが世界的に人気があり、先取り感覚の割には値段がリーズナブルな“H&M”の新しいCMだという事が判った。

画面から察するに、どうやら1960年代半ば前後のロンドンの街の若者たちのファッション、つまりMods Look(モッズ・ルック)を、現代流にカヴァーした新作ファッションらしい。

そうなると、物見高い好奇心病の我が身は我慢できず、他に用もないのに、渋谷の東急本店通りのH&Mショップまで出かけて、買うでもないのに、店内の新製品をジロジロと見てまわる…うーん、なるほど、やはりModsの再現、もしくはアレンジ。

正確には、Modsの音楽がファッションを携えて現われ、やがて、ボウイやT-Rex(ティーレックス)のグラム・ロックの音楽とファッションに移っていく微妙な時期のリバイバル。

さすがにH&M、人気があるだけの事はあるなと感心した瞬間…突然というか必然というか、ボウイのアルバム『Pin Ups(ピンナップス)』(1973年)を思い出した。