音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その20

2017.04.24

 (前回から続く)

 このところ、イタリアのクラシック/アンビエント・ミュージックの作曲家ルドヴィコ・エイナウディ(Ludovico Einaudi)の新しいアルバム『Elements(エレメンツ)』を聴く事が多い。

オープニングの「雨の匂い(ペトリコール)」という曲と、続く「夜(ナイト)」という曲が特に好きだが、風景の音楽というアンビエント・ミュージックの意味に、僕の気持ちは反して、雨や雪とは程遠い晴天のカラカラに乾いた天気の日でも、夜とは縁遠い朝の家事の真っ最中でもお構い無しで、我ながらあきれてしまう。

普段、FM番組などで、ナレーションや台本/テキストに沿った選曲をやっている内に、どこかでそれに反抗する神経が芽をふいてきたのかもしれない。

                                          

ルドヴィコは、自からピアニストでもあるが、ショパンやラフマニノフのように、自作曲を自からのピアノで華麗に奏するタイプではない。

ミニマル・ミュージックのように坦々と同じフレーズを繰り返していくプレイが多く、かつての“家具としての音楽”と称されたエリック・サティの現代版と言われるのもよく解る。

数多くの映画音楽も手懸け、ニーノ・ロータとエンニオ・モリコーネのやはり現代版と言われるのもしかりだ。

ルドヴィコのこの坦々とした、あるいは淡々としたピアノと、対照的に、時としては華麗に編曲されたストリングスを聴いた後に、さていったい何を聴こうか、と最初一瞬迷い、すぐにデヴィッド・ボウイの『ヒーローズ』の後半、特に龍安寺の庭の端に座しているような「モス・ガーデン」や、『ロウ』の後半の「アートの時代/Art Decade」を頭の中で選び、これが日常の選曲の定番になってしまった。

これではあまりに沈みすぎる、日々の活気活動に影響すると、少し反省し、ボウイのアルバムの前半の「ヒーローズ」「ライオンのジョー/Joe The Lion」『ロウ』のやはり前半の「ホワット・イン・ザ・ワールド」等を聴く…そうすると、ボウイの影響を多々受けているデペッシュ・モード(Depeche Mode)4年ぶりの新作『スピリット/Spirit』の中の「ホエアズ・ザ・レヴォリューション/Where's the Revolution」を聴いてしまう。

そしてまたルドヴィコのアンビエントなピアノにたち帰る。