音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その22 [2/2]

放っておくと、僕は、安物のレコード針で、借りもののレコードであっても、我を忘れて何度も聴いてしまうのだ。

古来から、音楽評論家の類の人は「このレコードは、まさに擦りきれる程聴いた…ウンヌンカクカク」といった文章を平気で書くが、それは嘘表現か、自分で買った自前のレコード、と思っている。

僕のように、成田のレコードを始め、井藤のボブ・ディランのシングル盤、金谷のオーティス・レディングのアルバムLP盤など、同級生が貴重な小遣いで買った大切な新品を、あっという間にガリガリ・ノイズ附きの中古盤にしてしまう輩は、そんな事をまず書かない。

 普通なら、仲間に袋叩きにされるのがオチだが、「全く、お前って奴は…」と苦笑して許してくれたのが今でも不思議だ。

だが、僕を図に乗せてはマズいと思ったのか、成田は、町で唯一、当時最新のジューク・ボックスを備えていた喫茶店『オリンピア』に向かい、渋るマスターに「皆にも聴かせたいから…」と半ば無理やりにキンクスのシングル盤をボックスにはめ込んだのである。

この美しい青春の情のおかげで、悪友達全員、B面の曲にまで精通する事になった。

Where Have All The Good Times Gone」を歌うボウイのヴァージョンを聴く時、「Where Have All The Good Friends Gone」と勝手に歌詞を変えて、無意識の内に合唱してしまう事も度々。

ボウイだって、英国オリジナル版の『Pin Ups』のジャケットに、なぜかこの曲の歌詞だけを載せている。

何か特別な訳があるのだろう…ひょっとしたら、ボウイにも悪友なれど盟友が、高校生の頃にあったのかもしれない、とこれまた勝手な想像をしてしまう…

追憶にふけっているところに、一回り以上も若いラジオ・ディレクターの徳山からメールが来た。

「Fame.21を拝読しました。僕も中学時代“勉強はできるけど、どこかアウトローな変わり者”のクラスメイトから、ストラングラーズの素晴らしさを教わったのを思い出しました」

 そうだった!ボウイより一回り以上若い世代のバンド、ストラングラーズも、キンクスの「All Day & All Of The Night」を凄くカッコ良くカヴァーしていたっけ…

やっと僕の脳は、もう少し新しい時代にギア・チェンジする事ができた。(文中敬称略:次回へ続く