音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その18

2017.02.02

 (前回から続く)

 初めてデヴィッド・ボウイのアルバムをフルに聴いたのは1972年の夏。 渋谷の百軒店(ひゃっけんだな)にあるロック喫茶『SAV(サヴ)』の一階で、アルバムは『The Rise & Fall Of Ziggy Stardust & The Spiders From Mars』。

本国では、'72年の6月に発表され、日本では約半年後の11月に発売された。

僕の持っている古い資料やLPでは、邦題は、原題を直訳したような『屈折する星くずの上昇と下降…そして火星から来た蜘蛛の群れ』という長いタイトルで、既にロック喫茶のマスターや常連は、後に通称タイトルとなる『ジギー・スターダスト』とか、それを略して『ジギー』と呼んでいた。

 現在工事現場のようになっている再開発中の渋谷とはまるで異なり、当時の渋谷はサブ・カルチャーの尖端地で、僕が『ジギー』を初めて聴いた日から一週間後には、ロック喫茶からほど近い横丁に『ジギー』という名の古着屋が出現し、ロンドンの古着を売っていて古着の山の向こうの壁にボウイのポスターや写真が貼りつけられ、店員さんが「このシャツ、凄くジギーでしょう?」とすすめながらペイズリー柄のシャツを見せたりしていた。

少なくともロンドンでは、ひょっとしたらイギリス全土の街では、ボウイという火星から本当に落ちてきたようなロックの新しいスターのファッションや髪形を真似る若い男…いや両性具有のヴィジュアルのようでもあったから、若い女も、いっぱいいたのだろう。

ジギーという新しい形容詞は、そのまま定着し、現在でも、ヴィジュアル系のロッカーのファッションの重要な原点になっているし、その後、様々な変容で、常に時代の先をいったボウイ御本家のイメージの中でも最も強いもののひとつだ。