音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その18 [2/2]

     

 アルバム『ジギー・スターダスト』は、いわゆる出世作で、ボウイを一躍有名にしたが、その巻頭を飾っていた「Five Years(5年間)」をもじって追想すると、5年後のボウイは、あの『ロウ』に続く『Heroes(ヒーローズ)』('77年)を発表していて、'72年当時からの熱心なファンでも、その5年後のボウイの姿を予測予感した人はいないだろうと思う。

 奇妙なポーズをとるジャケットのボウイを見て『ヒーローズ』という特異なアルバムを記憶する人も多いが、これは多分、デビュー以前から、リンゼイ・ケンプというパントマイムの偉人に師事してパントマイムを学んでいた若き日のボウイへの追憶…それと同時に「Sons Of The Silent Age(沈黙の時代の子供たち)」に表われている70年代後半の反体制運動やヒッピーイズムの沈下や、アンダーグラウンド文化の衰退に疲労した若者たちへの鼓舞のように写る。

僕も、当時の少し疲れた若者だったが、それはそのまま、21世紀半ばを過ぎた現在の若者、若者ならずとも大人たちへのメッセージやサインとして伝わってくるのではないだろうか?

 2016年の年の瀬になって、ふと思い出したように聴いた、いや、聴いてしまった40年も前のボウイの作品『ヒーローズ』。“誰でも一日だけは王(キング)になれる”というタイトル曲のリフレイン部分だけを聴いていると、甲斐バンドの「ヒーロー」や木村拓哉のかつてのヒット・ドラマ「ヒーロー」と同じく、よくある平べったい若者を奮い立たせるメッセージ・ソングのようにも聞こえる。

しかし、アルバム全編を聴いていくと、ボウイの、あらゆる独裁者への興味研究の姿勢が、今にして解ってくるような気もする。

やはり僕にとっては、2016年という年は、ボウイ1月10日死亡に始まり、キューバのフィデル・カストロ11月25日死亡、に終わるという記憶として残っていく年だった。(次回へ続く)