音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その17

2017.01.21

 (前回から続く)

 2017年が明け、この原稿を書いている1月8日は、デビッド・ボウイの大回顧展『David Bowie Is』の日本版のオープニングの日である。

ロンドンにあるビクトリア&アルバート博物館(V&A)が2003年に企画し、既に9ヶ国を回り、ボウイの死から約一年目の日本上陸、という興行的には絶妙のタイミングだ。

さぞや興奮しているだろう、と何人かの友人に言われたが、まだボウイの多様多面な才能と作品を再勉強中の僕は、ボウイの存在をアート的に見せるイベントに、予想したより興奮せず、もう少し落ち着いた何年後かにもし観られるならそうしたい、というのが、正直な感想だ。

 ボウイ展よりも、2016年暮れに発表されたローリング・ストーンズのアルバム『Blue & Lonesome(ブルー&ロンサム)』を聴き、いったいこの作品を自分の中でどう把えたらいいのだろう?という事に気を取られているのが事実だ。

高校1年生の冬に、ラジオから流れる日米でのデビュー曲「テル・ミー」を聴いてからずっと大ファンである僕は、多分一生の間、ストーンズに冷たく否定的な気分にはならないだろう、と思いこんでいた。

 だが、音楽メディアや新聞その他で、評論家諸氏や知識人たちが“自分達の原点である黒人ブルースに徹底的に回帰した素晴らしいアルバム”と一様に美辞麗句を並べたてるのを読むごとに、これらは全て、V&Aが新たに企画したローリング・ストーンズ半世紀以上の活動を描いた展覧会『エキシビション(露出症)』の広報コピーなのではないか? あるいは、今さらストーンズの悪口を言えないマスコミ人達の売文なのではないか?という気持ちになってきた。