音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その16 [2/2]

 ヘソ曲がりの僕は、当時愛用していたラジカセで、このダークでゆがんでパンキッシュな、つまりロウ(気が滅いる)なアルバムを何度も聴いた。

この節、NHKのニュースや朝日新聞の記事が報道した“カセット・テープ再ブーム”によると、音響メーカーが新しいラジカセを発売までしているらしいから、若い人に、このロウなアルバムをカセットで聴いてHigh(ハイ:高揚する)体験を味わってほしい、という提案をしたいと思っているが、馬鹿にされるかもしれないなとも思う。

     

 ラジカセで思い出したが、ビニール袋に入ったラジカセの写真をジャケットにしたダリル・ホール&ジョン・オーツのアルバム『X-Static(モダン・ポップ)』'79年)というヒット作を出した直後、初来日を果たしたふたりにインタビューをした時の事だ。

 「ボウイの『ロウ』をよく聴いているよ。俺も、ああいうサウンドのソロ・アルバムを今作っているところなんだ」と、能弁で、ツッぱっていて、あまり他のアーティストの事をほめたり、影響を受けたなんて言わないダリル・ホールがそんな発言をし、驚いた記憶がある。

当時は、R&Bやソウル・ミュージックをよく研究したポップなデュオのイメージがやっと浸透した時で、まさかその片方のダリルが、あの『ロウ』のようなアルバムを制作しているなんて、想像もできなかった。

 ダリルのそのソロ・アルバム『セイクレッド・ソングス/Sacred Songs』は、'77年に完成していたが、案の定、所属するRCAに拒否され発売されず、2年半経った'80年にやっと世に出た。

ロウ』の影響を受けた作品は数あれど、その第一号にして“幻のアルバム”…それも今では名誉かもしれない。(次回へ続く)