音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その16

2016.12.23

 (前回から続く)

中古レコード店で、古いシングル盤を物色していて、ふと隣の棚を見た時、目を疑った。

かなり大きな箱に、ブリティッシュ・ロックとかクロスオーバー・ジャズといった見出しが書かれ、その中に、カセット・テープがいっぱい入っている…背文字をよく見ると、例えば、Captain&Me/Doobie Brothersといったアルバム・タイトルや、かつてのFMやAMの番組のタイトルが書かれている。

「昔の試聴テープやラジオをエア・チェックしたテープを捜している人が多いんですよ」と店長の弁。

「やっぱり年配の客?」「いや、割と若い人が多いですよ」「エーッ?」といった会話が続き、「ボウイのカセットありますか?」「2本あったけど、アッという間に売れました」

 まさか2016年になって、コンパクト・ディスク(CD)という言葉も少し通じなくなっているのに、カセット・テープがよく売れる、なんて事を耳にするとは想像もしていなかった。

そういえば、ボウイのアルバム『ロウ』も、70年代の半ばだから、初めて聴いたのはカセット・テープで聴いた。

ボウイが契約していたRCAレコード・ジャパンの制作部で、担当の高橋ディレクターから「ボウイのニュー・アルバム、あまり業界に配るな、って上(うえ)から言われてるんだけど、大伴さんは、こういう音、好きだから」と手渡された。

「High(ハイ)に対してのLow(ロウ)なんて単語は、アメリカの本社のディレクターに言わせると、ポップ・ミュージックの題名には絶対使ってはいけない言葉なんだって。それで、本社としては、しばらく、発売するか、しないか、会議を重ねていたらしいよ」

 それで『ロウ』のリリースは、いくら大スターのD.ボウイの新作でも、世界的に少し遅れたのである。

RCAといえば、映画会社としてスタートした有名レーベルで、50年代にはエルビス・プレスリー、60年代にはポール・アンカ等、数多くのポップ・スターを輩出してきた名門だ。

ボウイとはいえ、現在でもショッキングな内容の『ロウ』を世に出すには少々苦戦を強いられたのである。