音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その15 [2/2]

  

 『我が闘争』は、観ていても、子供の僕にはほとんど解らなかったが、一緒に観に行った西崎クンが、ヒトラーのポーランド侵略併合とか、全ヨーロッパとロシアまで狙ったナチズムの足跡などを、映画館の横の席からボソボソと解説してくれる…それでも、西崎クンの大人びた博識とインテリ度の高さに感心した事しか覚えていなくて、つまり、ほとんど映画の内容は理解していなかった。

50年近く経ってから再会した西崎クンは、同級生とは思えぬ相変わらずの大人びた口調で「そうか…それで、あの映画は、お前の音楽の趣味に何か影響を与えたの?あの映画では、同じようにくり返されるマーチと、ゲルマン人のクラシック音楽ばかりだったけど…」と言う。

そこで再び、彼の観察力に感心して絶句。「デヴィッド・ボウイの『ロウ 』を一度聴いてみろよ」とだけ言っておいた。

 そういえば、ボウイも、途中から『ロウ 』のレコーディングに参加したブライアン・イーノ(Brian Eno)に、新しいエレクトロニック・キーボードのあれこれや、ディスコ・クイーンのドナ・サマーをプロデュースしていたジョルジオ・モロダーが影響を受けているミニマル・ミュージック(同じ音やメロディーを延々とくり返す環境音楽の手法)等、様々な事を教えられた、と後年のインタビューで語っている。

アルバム中盤に「A New Career In A New Town(ニュー・キャリア・イン・ニュー・タウン)」という短い曲がある。

東西が対立する壁の街ベルリンを、ただの風景として見つめ、ボウイは、新しいキャリアをスタートさせたのだろうか? (次回へ続く)