音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その9

2016.08.25

 (前回から続く)

 デヴィッド・ボウイのシアトリカル(演劇的)な才能には、早くから、世界中の演出家や映像作家が気づいていた。

それも当然で、1960年代の末に、自身で生み出したあのジギー・スターダストの扮装とステージングで、それまで観た事のないロック・アクトを創り出したのだから、演劇や映画の関係者が目をつけないはずはなかった。

しかし、スクリーンに、俳優として姿をあらわしたのは、意外に遅く、宇宙から地球に落下してきた、ボウイにしかやれない役の『地球に落ちて来た男』(1975年)が事実上の初作で、その後、『ジャスト・ア・ジゴロ』('78年)、『ザ・ハンガー』('82年)、そして、大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』('82年)等の作品がある。

だが、『戦場のメリークリスマス』での坂本龍一の俳優と音楽家兼業と同じように、やはりミュージシャンとしてのパーソナリティの強さが目立ってしまい、俳優としてだけで観察してもなかなかのものだ、という気持ちは、正直言ってわかなかった。

この70年代中期から80年代前期にかけてのボウイは映画づいていて、ドナ・サマー他のプロデューサーだったジョルジオ・モロダーが音楽を担当した映画『キャット・ピープル』('81年)の主題曲を歌っているし、同じ'81年のドイツ映画『クリスチーネ・F』には、シンガーの役で特別出演するとともに、自身の既発表の曲9曲でサウンドトラックを構成するという音楽監督も担っていた。

このままいくと、普通のポップ・ミュージックのアーティストとしての活動をどんどん減らしていくのではないか、と僕は少し心配になった。

それを一気にポップなラインにゆり戻したのが、ナイル・ロジャースと組んだアルバム『レッツ・ダンス』('83年)だった訳である。

しかし、ボウイは、大ヒット・ポップ・アルバムを産んだわずか2年後に、また映画と関連した素晴らしい作品を作り出す…この映画への執着力には、90%感服し、10%はあきれてしまう程だった。