音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Fame. その9 [2/2]

        


 その'83年の問題(?)の傑作は、パット・メセニー・グループ(Pat Metheny Group)の『コードネームはファルコン/The Falcon & The Snowman』のサウンドトラック・アルバムで、CIAのスパイのコードネームがファルコンであり、ドラッグの売人がスノーマンと呼ばれる内容から、アメリカ合衆国の暗い部分を描いている事は誰にでも解る…映画やサウンドトラック盤の制作は既に'83年に始まっていたのに、公開が'85年になってしまった裏には、いわゆる当局との争いがあったというのが通説だ。

 1968年に話題を呼んだ『真夜中のカウボーイ』でアカデミー監督賞を受賞したジョン・シュレジンジャーが、ロバート・リンゼイの社会派サスペンス小説『スパイ衛星を売れ』を元に作った映画だから、いわゆる当局ともめ事のひとつやふたつあっても不思議ではないが、僕にとっては、あの『真夜中のカウボーイ』以上に印象深い映画で、それには、『レッツ・ダンス』の大ヒットで、ポップ・スターとしての存在感を再び高めたデヴィッド・ボウイが、その忙しいさ中に、わざわざレコーディングに参加し、パット・メセニー・グループと共に主題曲を作り上げたという背景があるからかもしれない。

その主題曲は「ジス・イズ・ノット・アメリカ/This Is Not America」。

シンガーとしてのボウイの力量も魅力も存分に発揮された名曲で、単一の曲としては、僕は、あの「チャイナ・ガール」とともに一番好きなボウイ・ナンバーである。

タイトルからして反米的な内容を持つこの曲が、'85年初頭から全米チャートを昇る大ヒット曲になったのは、やはりボウイにしか産めない皮肉だろうか?(次回へ続く)