音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

星色のカオス3 (デペッシュ・モード : Depeche Mode)

2011.07.01

(前回から続く)

 先日、主演のナタリー・ポートマンがオスカーの主演女優賞を獲得したという話題にもつられて、映画『ブラック・スワン』を観た。

ニューヨーク・シティ・バレエ団のニナ(ナタリー・ポートマン)が『白鳥の湖』のプリマドンナの座を得るものの、純真な白鳥と、魔性と混乱を持つ黒鳥の両方をひとりで演じなければならない難役に悩み、過酷なレッスンを自身に強いる内、現実と妄想の区別がつかなくなっていく…というのがストーリーの柱。

妖艶で邪悪な面もある黒鳥を踊りで表現するのに悩み続けるニナの演技は、観ていて痛みを伴う程で、なるほど、これはアカデミー賞最高位にふさわしいと感じつつ…そこは、音楽リスナー、改めてバレエ音楽の名作中の名作『白鳥の湖』の、清濁陰影に富んだ発想と作曲力に感心してしまった。

そして、誰でも知っている『白鳥の湖』の調べや、ニナ、つまりナタリー・ポートマンの踊踏に満たされながら、なぜか頭の中では、デペッシュ・モードの色々な曲が次々に鳴り渡っていたので、少し、自分でも困惑した。

白鳥と黒鳥、という文字通りのコントラストがひとりの主役に存在すると設定した“二面性のドラマ”は、古来から、音楽や美術、舞踏、映像など、あらゆる芸術でおなじみのテーマなのかもしれないが、その典型の映像を観ている内に、デペッシュ・モードのなじんだ様々な曲が頭中で鳴り響くというのもどうしたものか…

ひょっとしたら、彼らの音楽にはずっとこの対比の美学あるいは混濁のようなものが在り、そこに凄く伝統的なものを僕は感じ続けていたのかもしれないと、後になって思った。