音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

星色のカオス2 (デペッシュ・モード : Depeche Mode) [3/3]

 2003年になって、初めてマーティンに会う機会を得た時、やっとその超マニアックなカヴァー曲について尋ねる事が出来たが、

「僕は、好きな曲を友達に聴かせなきゃ気がすまないタイプで、自宅でパーティーをやると皆が“なんだ、こりゃ?”と困っていたんだ。自分でやってレコードにすれば、もう少し熱心に聴いてくれると思ってね」

と熱心すぎるDJというかコンシェルジュのような答が帰ってきて、少し驚いた。

 だが、このマーティンのカヴァーのおかげで、タキシード・ムーンの「In A Manner Of Speaking(イン・ア・マナー・オブ・スピーキング)」という凄い曲を知り、タキシード・ムーンやその中心人物ウィンストン・トンのアルバムも聴くようになった。

マーティンが「スマイル・イン・ザ・クラウド」というなんとも深い歌詞の曲をカヴァーしなければ、オリジナルのドゥルッティ・コラムのレコードを聴く事もなかっただろう。

 Counterfeit(カウンターフィート:まがいもの、偽物)というタイトル…一生懸命録音したがわずか6曲しか出来上がらなかったので6曲入りE.P.(ミニ・アルバム)…というタイトリングもマーティンらしいのか、らしくないのか、いまだによく解らない。

ただこのソロ・アルバムを聴き、テクノとかニュー・ウェイヴという言葉でひとくくりにされていた80年代直前のイギリスで、デペッシュ・モードが、少なくとも全く違う視点の歌詞世界の音楽をやろうとスタートした事にやっと気づいた。

それは、僕にとって、大きな勉強の機会だったと思う。

(次回に続く)

Counterfeit E.P.