音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

星色のカオス2 (デペッシュ・モード : Depeche Mode) [2/3]

 そんな頃、突然、マーティン・リー・ゴアのソロ・アルバムが登場した。

1989年の春。

前回で述べたアルバム『ミュージック・フォー・ザ・マスイズ』あたりからアメリカでも人気急上昇し、全米ツアーも大成功、そこで録音したライヴ・アルバム『101(ライヴ・イン・パサディナ)』の仕上げにも参加せず、ひたすらソロ・アルバムの制作に没頭していた、と伝えられた時、彼に何の不満があるのだろうか、とほとんどのファンは思っただろう。

グループの作品の大半を作り、彼のオリジナリティが最も評価され絶賛されている時期に…

普通ソロ・アルバムというものは、グループの音楽性や運営に、多少なりとも不満があり、そのフラストレーションをうめる意味で作られる事が多いのだが…。

 そのソロ・アルバム『Counterfeit E.P.(カウンターフィート・イー・ピー)』は、意外なアルバムだった。

マーティンが、普段愛聴している他のアーティストの曲を、自分なりに、というか、デペッシュ・モード的サウンドで演じた全曲カヴァー・ヴァージョンのアルバムだったのである。

普通、カヴァー・アルバムなら、1、2曲は、スタンダード的な名曲を取り上げ、自分の解釈や料理法の妙を見せるぐらいはやるものだが、マーティンの選んだ曲は、ジョー・クロウ、タキシード・ムーン、ドゥルッティ・コラム、コムサット・エンジェルス、スパークスといったマニアックなファンしかよく知らないようなアーティストの楽曲。

そして、黒人霊歌の古曲がひとつ。

マニア好みのアーティストが、自らDJをしている深夜のFM番組のプログラムのような内容だが、まさにその手の番組の選曲をしていた僕にはありがたい代物、とはいうものの、オリジナル版の楽曲をよく知らないような素材を選ぶのもためらわれ、しばらく困惑しながら聴いていたのも懐しい。