音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

魔女たちのジグソーパズル2 (ディープ・フォレスト)

2010.11.1

(前回から続く)

 ボヘミアン、つまり、ボエム人、という形容詞/名詞は、多分近世のヨーロッパの都市の中では、あまりいい意味では使われていなかったのではないかと思う。

ディープ・フォレスト(Deep Forest)のイメージ4

既に定住型の社会が築き上げられ、そのシンボルとなっていたローマやパリやロンドンに住む人達(主にアングロ・サクソン系)から見れば、東欧のどこかからやって来る、というより流れこんでくる、そして、観たこともない絵を描いたり、聴いたこともない音楽を演じたりすることだけを業(なりわい)に街路で日銭を得るような人種は、根無し草の如きものであり、軽蔑の対象以外の何物でもない、という心理があり、それが長く続いているのだろうと推察される。

アルバム『ボエム』の中には、ハンガリアン・ジプシーの古曲にヒントを得た曲があるし、流浪、もしくは放浪の旅の中で、生活用具である斧(おの)を始めとする道具がそのまま楽器になってしまった音が使われている曲もある。

また、定住所が無いゆえに捕われ投獄された囚人の男の哀歌をそのままメイン・メロディーに採用した「フリーダム・クライ」といった曲もあった。