音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

魔女たちのジグソーパズル (ディープ・フォレスト) [3/3]

 ところが、第二作『ボエム』は、そんな僕の鈍い意識を覚醒させた。

発表時に、初めて二人に会ってインタビューした事も大きいが、先ず、アルバムで展開されている音楽の音や言葉や声やビート等が、どこか懐かしい思いにかられるものであると同時に、全く知らない新しいものであると感じさせられるものであり、例えて言えば、全くなじみの無いハイテックなビルの一室の中で、懐かしい小学生の頃のアルバムの写真を見せられ、その時間的ギャップや状況的ギャップを意識する前に、その不思議なシチュエーションに気持ちが入りこんでしまった、といった感じか…。

この要因の第一の要素は、そのタイトル『ボエム』にあった、と今にして思う。

ミッシェルとエリックの説明を聞いて初めて知ったが、ボエム(BOHEM)とは、我々がよく使うボヘミアンの語源となる文化あるいは古い地名で、東欧のトランシルヴァニア山岳地帯から中欧アジア、果ては台湾へ至る地帯を行き来していた流浪の民の独特の文化の事だった。

多分、中世前後の時代の事だろう。

 小学生の終わりの頃、芸能人や、不良っぽい作家等が、このボヘミアンという言葉をよく使っていて、ふたりの姉が「ちゃんと勉強しないとボヘミアンになっちゃうよ」と僕をよく叱っていた。

そういう点で、訳の解らない憧れと恐れのこもった古き流行語であったのだが、まさか30年後に、フランスの一枚のCDに、そんな事を思い出さされ、そして、より詳しい事を教えられるとは、考えてもみなかった。

(続く)

ディープ・フォレスト(Deep Forest)のイメージ3