音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

灰色ネズミの見果てぬ夢2 :Danger Mouse (デンジャー・マウス)

2012.07.04

 (前回から続く)

 デンジャー・マウスとダニエル・ルッピのコラボレーション・アルバム『ローマ/ROME』のアルバム・ジャケットは、黒いハートが涙を流し、それが手の甲と指のように変形しているような絵が中心を占めているもの。

一見、何の変哲もないデザインで、鬼才二人のジョイントにしては地味過ぎるように、最初は思われた。


しかし、よく見ると、ROMEというタイトル・ロゴの上に“Danger Mouse & Daniel Luppi Present”という小さな文字の記載があり、下には、“Starring Jack White & Norah Jones”と同じ小さな書体の文字でのクレジットがある…

言葉使いといい、シンプルに徹したアート・ワークといい、まるで古い映画のポスターであり、そのポスターのデザインを丸ごと転用したサウンドトラックのアナログ・LP・レコードのジャケットを連想し、妙に嬉しくなってしまった。

僕と同じ年代のアーティストがそんな事をやっても、単なる懐古趣味と片づけられてしまうだろうが、なにしろ30歳代半ばの、現在(いま)の尖端をいくカッティング・エッジな音楽クリエイター二人がやると、レトロとクリエイティヴィティの結晶という事になる。

少し嫉妬やうらやましさも感じてしまうが、アートや音楽の歴史ってそんなものだろう。

というより、真似をしたり、再現したりして、前時代の遺産が受け継がれ、歴史が造られる、と考えた方がいいはずだ。