音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

灰色ネズミの見果てぬ夢2 :Danger Mouse (デンジャー・マウス)[2/3]

 ところで、この『ローマ』を聴いていると、デンジャー・マウスやダニエル・ルッピが明らかに敬愛しているであろうエンニオ・モリコーネの音楽を想起する人がほとんどだろうが、僕は、モリコーネの映画音楽作品の中でも、特に、1984年の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を思い浮かべてしまう。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ

夕陽のガンマン

荒野の用心棒

 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』は、セルジオ・レオーネ監督の、晩年の作品と言ってもいい老熟期の映画だが、『夕陽のガンマン』とか『荒野の用心棒』といった、いわゆるイタリア製のギミックなウエスタン映画(マカロニ・ウエスタン)で世界を征服し、ポップスの作曲家/編曲家だったモリコーネとともに、1960年代末から'70年代にかけて大いに名を売ったイタリアン娯楽の大家の総仕上げの作品としては、不思議な作品でもある。

禁酒法時代のニューヨークのユダヤ系移民のゲットー、後にロウアー・イーストと呼ばれるユダヤ人街に育った二人のギャング(ロバート・デ・ニーロとジェームズ・ウッズが好演)の成り上がりと曲折と明暗を描いた壮大なヤクザ物語だった。

僕にとって、特にこの映画で印象的だったのは、エリザベス・マクガヴァン演じるデボラが、明らかにバーブラ・ストライザンドをモデルにした役柄で、三流小屋のオフなミュージカルできっかけをつかみ、一気にブロードウェイの一流劇場のミュージカルの主役、間髪を置かずにハリウッド映画界へ進出するアメリカン・ドリームのスピードと凄さ、それに伴う幼ななじみのギャング達との別離が、見事に描かれている所。

「アマポーラ」という古曲の使い方も上手かったが、アメリカの中の、遅れて移民してきたユダヤ系やイタリア系やアフリカ系の人達が、いかにして成り上がるか、そのエネルギッシュにして哀しい実態のエッセンスを皆間見た気がした。

 セルジオ・レオーネは、10年以上もこの脚本に取り組み、やっと完成させた直後に体調を崩し、結局『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』はレオーネ監督の遺作になってしまった。