音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

灰色ネズミの見果てぬ夢2 :Danger Mouse (デンジャー・マウス)[3/3]

    今では、彼にインタビューして確める術(すべ)も無いが、ローマに住むイタリア人が、どうして、アメリカへの移民創成期のユダヤ人のアウトロー達を描こうとしたのだろうか?

ヨーロッパでは、暗喩で、ユダヤ人を“ネズミ”と呼び、ユダヤ人はそれに抗して、イタリア人を“イタチ”と呼び返す。

スティーブン・スピルバーグが制作したアニメーション映画『アメリカ物語』の主人公が、ロシアを追われたネズミの一家というのはその象徴的例解だが、新天地アメリカでも、さほど差の無い差別と誤解に遭ったユダヤ系の人とイタリア系の人は、どこかで共感を持ち共闘し、少なくともショウ・ビジネスの世界はともに牛耳る主力となった。

レオーネ監督の原点マカロニ・ウエスタンは、そのふたつの人種への賛辞で、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』はそのしめくくり歴史秘話だったのかもしれない。

わざわざ芸名にネズミを冠するデンジャー・マウスは、架空のサウンドトラック盤『ローマ』を作り上げ、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の中に登場した“ネズミ”という科白(せりふ)の意味を再度知らしめようとする。


そして、さしずめデボラ役のようなスターリング・シンガー、ノラ・ジョーンズの新しいアルバムを稀有な傑作にする準備まで始めていたのだ。

(次回へ続く)