音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

灰色ネズミの見果てぬ夢1 :Danger Mouse (デンジャー・マウス)[3/3]

見果てぬ夢イメージ1

 その『An Italian Story』を愛聴していたデンジャー・マウスとD・ルッピが手を組むのは、当然の成行きだったのだろう。

 ともに、ポップ・ミュージック界で売れっ子の30歳代半ばの忙しい男二人…時間とお金を工面して、5年以上も制作期間をかけ、ストリングスのパートは、サンプリングではなく、イタリアへ出向いて、60年代に実際に演奏していたイタリアの老プレイヤー達を集めて録音した…ほとんど、エンニオ・モリコーネの大ファンである腕白坊主が妙に真剣に取り組んだ産物であるが、デジタル・マニアック世代の凄さをアナログ・マニアック世代の僕にさえ感じさせる。


 この3月、少年時代をすごした町の中で一番モダンな映画を上映していた映画館が、半世紀以上の営業を完全停止、閉館するニュースが、同級生のメールで送られてきた。

モリコーネの名も知らないままに、スクリーンと音楽に魅せられていた日々は、懐しい、という言葉を超えて、思い出される。

あの映画館が使っていた、当時最新のアメリカのALTEC(アルテック)の劇場用スピーカーで、デンジャー・マウス&ダニエル・ルッピのCD『ローマ』を、一度聴いてみたかった。

架空のイタリア映画のサウンドトラック…もう絶対に叶わぬ夢想によく似合ったはずだ。

(次回へ続く)