音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

ブルーにこんがらがって2 :Was (Not Was)

2013.05.22

(前回から続く) 90年代を代表するトップ・プロデューサーになったドン・ウォズ(Don Was)は、とうとう名門ジャズ・レーベルBlue Note(ブルーノート)のこれからを担う社長に就任して、コンベンションのステージに登場した時も、とても輝いて見えた。

しかし、30余年前の1981年、あの曲を発表した頃、彼は一体どんな心境だったのか?



 あの曲…というのは、'81年のWas(Not Was)のデビュー・アルバム『ウォズ(ノット・ウォズ)…ん?』に収められていた「Where Did Your Heart Go?」という曲。

 アルバム・タイトルがグループ名だけの定例的なシンプル型だから、そのままの邦題でいいのに、わざわざ『…ん?』という半ばふざけた日本語疑問つぶやきが附いているのは、長年の友人でもある当時の担当ディレクターが、この二人組のサウンドと成り立ちに余程不思議なモノを感じていたからだろう。

全体に、ジェームス・ブラウンやP-ファンクの黒人ファンク・サウンドを手本にしたような…しかし、ファンク特有の汗をいっぱいかくような熱は全く感じられない、どこか醒めて人工的でプラスティックな感触のサウンドは、ドンとデヴィッドという仮空の兄弟二人組という形態とともに、かなり摑み所の無いもの…それ故に、日本のディレクター氏に『…ん?』というタイトルを附けさせたのだろう。

同種の特質を持つ二人組スティーリー・ダンで慣れていたので、僕はWAS(Not WAS)にもあまり異和感は感じなかった。



それでも、アルバム後半に、ぽつんと入っているメランコリックなメロディーの「Where Did…」には、思わず、ん?、という感想だった。

メキシコのとある街の教会の側で、偲ぶ人の心変わりを嘆き、ラジオから流れるロックンロールの“I Love You”のリフレインにも救われない…という究極の孤独で絶望した男の哀歌。

全体のファンキーでジャジーな都会的な乗りのサウンドの流れにあって、本当にぽつんと取り残された男のような異色の曲で、だから印象的な曲として、少しの間は、記憶に残る曲だった。

でも、その内、忘れてしまっていた。