音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

ブルーにこんがらがって2 :Was (Not Was) [2/2]

 5年後の1986年の晩秋、もう12月に近い11月の末のある日、突然、あのぽつんと取り残された男のような曲を思い出す事になる。

 正確には、思い出さされた、のだが…当時、品川駅の近くに住んでいた僕は、家までの近道であるWING高輪という商業ビル群の東館と西館の間の坂道をよく歩いていた。

ちょっと前までは、京浜ホテルといういかにも昭和の高度成長時代に建てられた感じの中型のホテルが在り、プロ野球パ・リーグの弱小球団が、東京で試合がある時、よく宿舎にしていた。

坂道で出くわした近鉄バッファローズの選手にサインをもらったりしたが、近辺を歩きいく人達は、サインをしている選手が何者なのか、よく判らないのが常。

ある意味で、とても東京らしい、それも古き東京らしい坂道だった。



 だが、80年代のバブル経済の前兆の中で、その古きホテルはあっという間に売り飛ばされ、周辺の古ビルもつぶされ、呆然としている間に、青い壁の巨大な商業ビル群に産まれ変わった。

お定まりの輸入ファッション・ブティック、輸入小物屋、カフェ、壁の一部をうめつくすビデオ・プロジェクターの集団、クレープやソフトクリームの西洋風屋台等々。

渋谷や新宿や池袋と区別のつかない空間があっという間に出来上がり、ため息を少しつきながら、でも近道ゆえに、その変貌した坂道を昇っていたら…なんとビデオ・プロジェクター群から、聴き覚えのあるメロディーが流れている。

思わず画面を見ると、見覚えのあるジョージ・マイケルの熱唱の顔。

あれ?WHAM(ワム)がこの曲を演っているの?

予想もしなかったあの曲との再会だった。

(次回へ続く)