音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

風吹く砦 (テレンス・トレント・ダービー) [2/3]

テレンス・トレント・ダービーのイメージ1

 もう半世紀も洋楽ポップスを中心に様々な音楽を聴いてきて、そうした“思い入れ”のような感情を覚える瞬間は、例えば14歳の時、ラジオから初めて流れてきたビートルズの曲に電流のようなモノを感じたなど多々ある。

 しかし、テレンスとの出遭いは少し違って、ロックやR&Bやその他の刺激的な音楽を好きでずっと生きてきて、やっぱり良かった、間違いではなかった、だってこういうアーティストを世の中に産み落としたんだぜ、という思いに襲われたのである。

テレンス・トレント・ダービーのイメージ2 テレンス・トレント・ダービーのイメージ3

彼は、簡単に言えば、社会的にアウトロウで、厳格な聖職者の父からのがれる為に、育ったマイアミで陸軍に入り、NATO軍の一員として赴任したドイツでAWOL(無届け退去)してしまい、処分が決まる間にファンク・バンドに参加した事がきっかけで、イギリスでデビューしたといういわば問題児アーティストだ。

そうしたどこか世に突っかかる性格と、名ソウル・シンガーのサム・クックに通じる歌唱力、プリンスばりのマルチなサウンド・センスなどが集結して、あの恐しく長いタイトルの傑作アルバムが生まれる事になったのだろう。

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