音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

存在の耐えられない重さ6 :Superheavy (デイヴ・スチュワート 後編) [3/3]

 デイヴ・スチュワートは、あまりテクニックに富んだギタリストという訳ではない事もあって、ロッカーと見ていない人も多いだろうが、先に述べた“ネガティヴをポジティヴに消化してしまう感覚”を自然に発揮している点で、僕は、この現代で、とても珍しいロッカーだと思っている。

少なくとも、この産業ロック/ポップスが常識になってしまった現代で、どうしてもそれになじめない雰囲気を音楽に漂わせている“ヤバい男”で、僕はそこが好きで、彼の創る音楽には、常に、興味をそそられるのだ。困った好みだが…。

 まぁ、なんといっても、いまだ魅力に富んでいるのは、1980年代を通して人気を博したユーリズミックスの音楽だが、そのユーリズミックスのサウンドの変化変貌だけを観察したり研究したりしていても、まだ時間が足りない程だ。

かといって、ユーリズミックスと併行して運営していたデイヴ&スピリチュアル・カウボーイズや、諸々のプロデュース作品等が、つまらない訳ではない。

ただ、相棒のアニー・レノックスの才能の存在ももちろん大きいが、ユーリズミックスは、デイヴの才能を100%表現しきっていた特別なものでありキャリアである事は間違いないだろう。

 ユーリズミックスを世に出した最初の大ヒット曲「スウィート・ドリームズ」は、デュラン・デュラン等が人気絶頂の第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンのさ中のエレクトロニック・ポップで、ユーリズミックスは、シンセサイザーを駆使する電子ポップスの新星と思いこんだが、その後、伝統的なロック・バンド・スタイルやソウル/R&B、フォーク・ロックのスタイルを、自由に、というより奔放に使って、一見同じグループとは思えないサウンドを次々に披露していった。


 今でも、日本のCMで何度もイメージ・ソングに使われている「ゼア・マスト・ビー・アン・エンジェル」や、文字通り愛の奇跡を歌ったメロディアスな「ミラクル・オブ・ラヴ」等、好きな曲は数多いが、いつも、本気でデイヴがこんな美しい曲を作ったのか、と首を傾げながら曲にいつしか魅了されていった記憶が伴う。

なにしろ、熱愛で同棲生活に入って間もなく、アニー・レノックスとのユーリズミックスにデビューのチャンスが訪れるやいなや、公私ともに生活するのは音楽の成長にはならないと、アニーとの恋人関係をやめてしまったという男だ。


真面目なのか、それとも不真面目でシェイキーなのか…その答が全く不明で、その変化の揺れがすぐに音楽に表われる所が、ふと考えると、一番の魅力?

単なる独善的な男なのかもしれないが、独善的な音楽を僕は元々好きなのだった。

サヴェイジ
「(アイ・ラヴ・トゥ・リッスン・トゥ)
ベートーベン」
/ユーリズミックス

スウィート・ドリームズ
/ユーリズミックス