音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

存在の耐えられない重さ4 :Superheavy (A.R.ラフマーン) [3/3]

 僕が、その異才ぶりに驚いている間に、ラフマーンは、2000年代に入るやいなや、さっさとアメリカに渡り、ハリウッド映画界に進出、『エリザベス:ゴールデン・エイジ』(2007年)等の映画に起用され、ますます持ち前の“音楽の集積力の高さ”を発展した音楽を創り出し、名声を高める。

ゴールデングローブ賞やアカデミー賞の作曲賞や歌曲賞を受賞した作品だから世評に便乗しているみたいだが、2008年の『スラムドッグ&ミリオネア』の音楽は、彼の音楽の多彩さと親しみ易さと深遠さが凝縮されていて、大変な傑作だと心底思う。

エリザベス
:ゴールデン・エイジ





スラムドッグ&ミリオネア

 ソロ・アルバムも多数あり、映画音楽とは関係なくシンガー/キーボード奏者としても有能なA.R.ラフマーン。1966年生まれの46歳。

ミック・ジャガーとジョス・ストーンとのちょうど中間の世代のミュージシャンとしてスーパーヘヴィに参加しているが、ここでみせるストリングス・アレンジやキーボード以上に、彼のチャント(祈り)がなかなかの味だ。

レゲエとロックとブルース、というイギリス人得意のルーツに傾きがちなスーパーヘヴィのサウンドに、イギリス移住の経験が無く、インド→ハリウッド、という直行渡航をした才人が、雄大で深遠な空気を投入している…

こういうものが、音楽のマジック、とよく言われるものの好例なのかもしれない。

(次回へ続く ~ ダミアン・マーリー)