音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

存在の耐えられない重さ3 :Superheavy (ジョス・ストーン) [3/3]

 夜の9時近くになって、'70年代マイアミ・ソウルの人気レディー・ソウル歌手だったベティ・ライトのMCに紹介され、ジョス・ストーンが登場。

17歳のイギリスの白人少女で日本でだったら、学園祭のステージでもアガってしまう歳であろうに、この自然さと落ち着きと堂々とした歌いっぷりは一体何だろう?

率直に、才能の大きさ、を僕は考えてしまった。

思えば、ビートルズが登場する直前の'60年代前半から、「悲しき片想い」のヘレン・シャピロ、「この胸のときめきを」のダスティ・スプリングフィールド、更に、シラ・ブラック、マギー・ベル、エルキー・ブルックス等、各時代に、ソウル・ミュージックやブルースを感じさせる女性歌手が、イギリスには、必ずひとりはいた。

最近では、27歳で急死したエイミー・ワインハウスもそのタイプで、これもイギリスのポップのひとつの伝統。


 彼女達が、インタビューで夢を語る時、必ず口にしていたのが「ニューヨークのアーヴィング・プラザのステージに立ちたい」という事で、僕は、高校生の頃から雑誌『ミュージック・ライフ』の記事を見ながら、自分にとっても、ニューヨークの玄関、にしてしまって、想像の中で、ずっと憧れていた。


 彼女達に限らず、幾多のシンガーやバンドが、この“ニューヨークのお披露目名所”でのライヴを夢見て、そして、夢を果たせず、あるいは、目の肥えたニューヨークの客を前にしてコチコチになり、消えていった事か…。


 それなのに、ジョス・ストーンは、風格さえ漂わせて、楽しげに歌っている…恐るべき十代の無名の宝石の原石だった。



 オール・スタンディングのホールの右側をふと見ると、なんとミック・ジャガーと、プロデューサーのナイル・ロジャースが、少し身体を動かしながら、ジョスのステージを観ているではないか!

最初、そっくりさんタレントかと思ったが、回りに3人、黒スーツに鋭い目のガードマン…ああ、本物だ!

 勇気を出して近づこうとも思ったが、ミックの、少年のように嬉しそうにノッてる顔を見て、やめた。


Superheavyというバンドは、7年前のその時から、もう始まっていたのである。


(次回へ続く ~ A.R.ラフマーン)