音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

存在の耐えられない重さ3 :Superheavy (ジョス・ストーン) [2/3]

 2004年の9月9日、一日に何度も雨が降るニューヨーク。

僕は、その前年にデビューして、驚異の新星、天才少女と騒がれていたジョスの、アメリカでの初公演を取材する為、その荒天のニューヨークに居た。

雨風が激しいのに、マンハッタン北部のホテルからわざわざ歩いて南下し、15丁目のユニオン・スクウェア近くにあるアーヴィング・プラザ(Irving Plaza)に向かった。

滅多に訪れないニューヨークが、同時多発テロから間も無い時期、どう変わったのか、この目で少しは確かめたいと思ったのだが…


別に何も変わらず、忙しそうに歩くニューヨーカー達は'80年代や'90年代と同じ姿だった。

ただ、ダスティン・ホフマンやアル・パチーノが主演する映画によく出てきた、古くから在るコーヒー・ショップの何軒かが消え、シアトル発世界的チェーンのコーヒー店に様変わりしている…

これも時の流れか。

頑固そうな親父が、カウンター上のテレビのフットボールの試合中継をちらちら観ながらお湯を注いでいれるアメリカン・コーヒー。

そんなの昔のイメージ?


 ところが、到着して見たアーヴィング・プラザは、古い映画館か劇場のような佇まいといい照明のやや暗いトーンといい、全く昔のままで、'70年代半ばに、ここで初めてダリル・ホール&ジョン・オーツやルー・リードのライヴを観た時の高揚を思い出し、少し嬉しくなってきた。