音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Stoned Days(ストーンした日々).Ⅲ :The Rolling Stones (ザ・ローリング・ストーンズ) [3/3]

 '80年にロンドン・レコーズが新設された直後『Heartbreakers 14 Love Ballads』という寄せ集めの典型LPが発売されている。

ストーンズには、'73年に「ハートブレイカー」というハードなロックの名曲があるが、その曲が収録されているはずもなく、少しブルージーで心の傷を歌った「As Tears Go By」「Heart Of Stone」といったバラードと言えば言えなくもない曲を集めた割といい加減なアルバムである。

ただA面1曲目に「テル・ミー」が入っている。

 シーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠と、ストーンズ通の評論家の山名昇の対談から成るライナー・ノーツが素晴らしい。

 「テル・ミー」の項の一部を、勝手に無断引用させてもらおう。

鮎川:ううむ、胸がつまるね。多分その頃の最新流行やったやろうフィル・スペクター・サウンドの「Be My Baby」(ロネッツ)と同じコード進行フカフカ弾いて・・・。(中略)

山名:サウンドも深いエコーみたいなスペクター・サウンドの影響やろね。片やコースターズやドリフターズのアトランティック・ソウルの音やら何やら、同じ感覚で取り入れてるのが凄いと思いよったね。若いストーンズの吸収が柔軟ちゃね。

 二人の博多弁まる出しの解説が柔軟で底抜けに面白く、「テル・ミー」他を聴きながら、このライナー・ノーツを読むと、同世代の両氏を思い出すとともに、同級生の太田や金谷や井藤の顔と熱弁を思い出し、僕の頭は高校時代に戻ってしまう。


「テル・ミー」は数多くのバンドや歌手がカバーしているが、テキサス州サンアントニオ生まれの女性アーティスト、カッセル・ウェブ(Cassell Webb)のカバーが一番好きだ。

このバージョンのカントリー風味は、「テル・ミー」のそれこそ柔軟な感性と、同級生たちの無邪気だけど鋭い感性を思い出させ、故郷とテキサスが夢の中で交錯してしまう。(次回へ続く:文中敬称略)