音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Stoned Days(ストーンした日々).Ⅱ :The Rolling Stones (ザ・ローリング・ストーンズ) [3/3]

 思えば、「テル・ミー」との運命的な遭遇だった。

もし、この初出逢いが、イギリスで1位をマークしていた、ボビー・ウーマックのバレンチノズの「It's All Over Now」だったり、サム・クックの「Little Red Rooster」といったマニアックなR&B曲のカヴァーだったりしたら、僕は、ストーンズはR&Bマニアの黒っぽいバンド、という現在でも通説常識となっている印象にその後もずっと縛られていた事だろう。

あるいは、無知な少年は、ストーンズに全く興味を向けず、通り一辺のビートルズ・ファンで終わっていた事だろう。

それ程「テル・ミー」は、一風も二風も変わった曲だった。

 お小使いが少なく、欲しいレコードも熟慮厳選して買う必要があった僕に、最新の洋楽シングルをよく貸してくれたのが、隣町の町長の裕福な家の息子、太田だった。

ラジオのヒット・パレード番組(ヒット・チャートではない)の熱心なリスナーだった太田は、豊富な資金(?)で、最新のシングル・ドーナツ盤をほとんど買っていたが、「テル・ミー」はついでに買ったモノだという。


「ちょっと地味だな・・・カントリー&ウエスタンみたいな曲だ」と、僕に貸してくれる時に言った。


 カントリー? この一言が友人から発せられなかったら、僕の、自分の直観を信じてしまう性向も後年どうにかなったであろう。

 実は、初めて「テル・ミー」が流れてきた時、アメリカのカントリー・シンガーが好んで歌うハートブレイク・ソングのようなメロディーだなあ、と思ったし、キースの硬質のギター・ソロも、泥臭いというより土臭いカントリー風味を感じさせるものだと思った。

 太田が、気前良くその後2ヶ月も貸してくれたドーナツ盤を、毎日何度も聴いた。

ビートルズのレコードを聴いていても何も言わず、レイ・チャールズやアニマルズのレコードなら笑顔で一緒に聴いていた母が、この「テル・ミー」の時は珍しく仏頂面で、「こんな変な曲ばかり聴いてて・・・勉強もしないで・・・」とプイと背を向けて繕いモノを始め、その内台所に無言で行ってしまったのが忘れられない。


 こいつはヤバい事になったぞ、と恐れながらも、このローリング・ストーンズって奴らはなかなか凄いと心の中で思い、そのバンドの名を、家の中で、口にしないように気をつけるようになった。(次回へ続く:文中敬称略)