音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Stoned Days(ストーンした日々).Ⅴ :The Rolling Stones (ザ・ローリング・ストーンズ) [2/3]

当時まだ珍しかったファズ・ボックスとフィード・バックを多用したギターのトーンは“こんなに濁った音を好んで使うバンドは、果たして音楽を解っているのか?”と評されていた。

確かに、「マザー・イン・ザ・シャドウ」の全篇に鳴り渡るギターのファズ・トーンは、ビートルズ、いやポール・マッカートニーが弦楽四重奏をバックにした名曲「イエスタディ」と比べると、暗闇の中に立ちつくす母親を描いたと想われる半ば意味不明の歌詞とともに、雑音、そのものと感じる人は多かっただろう。

「マザーズ・リトル・ヘルパー」に至っては、家事や育児やその他でストレスいっぱいの母親の心と身体をちょっとヘルプするアレ・・・つまり、アンフェタミンとかスピードと当時から1970年代初頭に呼ばれていた覚醒剤の類(たぐい)を歌っているのは明らかだ。

しかも、ここでは、濁ったファズ・トーンはあまり使わず、インド音階とカントリー&ウエスタン調のギター・トーンでサウンドを作り上げるという巧妙な手法。

多分、故ブライアン・ジョーンズのセンスの賜物だったのであろう。

これから数年後、ブライアンは自宅のプールに浮かぶ水死体で発見され、R・ストーンズは、若いブルース・ギタリスト、ミック・テイラーを迎え、新たなスタートを切る。

ミック・ジャガーの暴言毒舌大口をイラスト化したような“アカンベ”マークのロゴとともに、自分達のローリング・ストーンズ・レーベルを設立し、健全なといってもいい程のロック&ソウル・ブルース・バンドに変身していった。