音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Stoned Days(ストーンした日々).Ⅳ :The Rolling Stones (ザ・ローリング・ストーンズ) [3/3]

 前年の'64年に創刊された『平凡パンチ』は、表紙をめくると、当時の若手女優やモデルのヌードではないがかなり露出の水着写真を連ねたグラビアがあり、当然、学校はおろか家にも持ち帰れない“不良育成雑誌”の扱いだった。

同級生の中の不良達も、隠し持ってはいただろうが、登校した校内で大ぴらに見せたり貸したりはしてくれない。

ところが、故郷の街で一番の大店の書店『ひさや』で、発売日になると、堂々と僕は立ち読みしていたのである。


何故だか、『平凡パンチ』には、ビートルズ礼賛の記事とストーンズのゴシップ&スキャンダルの記事が多く、その不思議を追いたいという高校生らしい好奇心もあったのだろうか?

忘れられないのは、その'65年当時、“ビートルズの新しい曲はあまり面白くない”とのミック・ジャガー発言を取り上げた記事と、やはりミックが“キンクスとザ・フーは、僕達のサウンドを真似しているから嫌いだ”と発言して、英米のジャーナリストや批評家や同業のミュージシャンをカンカンに怒らせている、という記事だ。

両方の記事に共通しているのは、いかにミックがビッグ・マウス(大口たたき)で、ビートルズのレノン/マッカートニーは言うまでもなく、ピート・タウンゼント(ザ・フー)、レイ・デイヴィス(キンクス)の知性に及ばない低脳か、という説明だ。

あまりに何度も、熱心に立ち読みしていたものだから、書店主の石田さんにひどく怒られた。


「そんな雑誌ばかり読んでたら、ロクな事がないぞ!」。


幼ななじみの健一くんの父君で、歴史研究者でもあった石田さんが、こんなに怒ったのは後先一度も無い。

息子の親しい友達が、必死に不良育成雑誌を熟読しているなんて・・・と、怒りも二倍になったのだろう。

あの大きな書店が今はなく、父君の怒りの声ももう聞けないのも寂しい。

久しぶりのストーンズのライヴを観ていて、ふと、その声と『平凡パンチ』の活版印刷のページの風景を思い出した。(次回へ続く)