音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Stoned Days(ストーンした日々).Ⅰ :The Rolling Stones (ザ・ローリング・ストーンズ)

2014.02.05

 ローリング・ストーンズは、世界一有名な現役のロック・バンドである。

地球上の大部分の人は、その音楽を聴いた事がなくても、その名前ぐらいは知っているだろう。

だから、その成りたちやパーソナリティーについては説明不要だ。

そういう存在は、常にひきあいに出されるビートルズがもう一方にいるぐらいで、多分この先、人間の造る音楽やエンターテインメントの世界で、登場する事は無いだろう。

説明不要の存在、というのは、音楽評論を業(なりわい)とする僕にとっては、よく考えてみると困惑させられる存在で、つまり、評論や考察やその他興味好奇を表現する作業がとても難しい。

思い出してみると、R・ストーンズについて書いた事はほとんど無い。

日本の音楽ジャーナリズムの世界には、ストーンズの専門家/研究家はゴマンといて、ストーンズ以外の音楽など全く聴かない変人(?)までいるから、雑食音楽愛好家の僕など門外漢の扱いだったのが事実だ。


それでも、1990年の初来日の時、FM誌の袋とじ特集の原稿を依頼され、ひとりで書くと偏ると案じて、やはり隠れストーンズ・ファンとよく言っていた亡き会田裕之とふたりで、突貫工事のような急ぎの原稿を手分けして書いた思い出がある。

切迫した入稿スケジュールだったので、会田が電話で「一緒に死にましょう(笑)」とジョークをとばしていたのも覚えている。

その時の厳しい執筆がたたったのか、本当に会田は体調を崩し、その後しばらくして帰らぬ人となってしまった。

その故会田が編集者をしていた『ザ・ミュージック』という月刊誌で、'74年のアルバム『イッツ・オンリー・ロックンロール』のレビューを書いた事もはっきりと記憶している。

メディアで、ストーンズに関して書いた経験はそのふたつだけだ。

そのアルバムに収録されているテンプテーションズの代表曲「Ain't Too Proud To Beg」のカヴァー・トラックは大好きで、FMのJ-WAVEの『イントゥ・ザ・ディメンション』という番組創設時の“一ヶ月間R&B特集:ロックの中のR&B・カヴァー”の一曲目に選曲したのも忘れられない思い出だ。

プロデューサーが、スポンサーや編成マンにどういう印象を与えるかを心配し「オートモさん、ストーンズではなくてビートルズのR&Bカヴァー曲でスタート出来ませんかね?」と青ざめた顔で言った。

「いえ、僕の原則のきまりってのがあって、新しい番組の構成や選曲に携わる時、必ずストーンズの曲で始める事にしているんです」

「・・・・ウーン・・・・困ったなぁ」といったプロデューサーとの会話が延々一時間弱も続いた'96年の午後のシーンも昨日の事のように思い出される。