音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

ゴールデン・リングの中のネナ ② :Neneh Cherry (ネナ・チェリー) [3/3]

 しかし、同じアルバム『MAN』に収録されている「ゴールデン・リング」は、それ程強固なプロテストと、女としての“突っ張り”をアピールしてきたと思われる女性ネナの“余裕”が感じ取れるのだ。

歌詞の内容は、文字の通り、金の指輪(ゴールデン・リング)、が主役だ。

生まれながらに、ひとつの所に留まる事を知らない自由奔放な旅人の私(ネナ)が、あなた(恋人もしくは夫)の指にはめる金の指輪をひとつ買おうと思う…という詞が静かにスピリチュアルにリフレインされる。

何も考えずに聴けば、婚約あるいは結婚の誓いとしての指輪に託して、こんな自由人の私があなたと落ち着こうと決意しているのよ、と男に切り口上を発している古今珍しくもない楽曲パターンだ。

だが、そうした世間の“約束事”や男性への期待感を全く感じさせない荒涼ともいえる孤独感がこの短いバラードには漂っていて、ああ、この人は終生ひとりで音楽に託した道を歩いていくんだろうな、と直感した。

著名ジャズマンの娘であり、ヨーロッパのヒップポップの開拓者のひとりであり、ニューウェイヴ・ロックの女神とも言われ、母親であり、ごく普通に親しまれるポップ・スター・でセックス・シンボルであったネナ・チェリーだが、一番の魅力は、何物も癒せない孤独を、様々な音楽スタイルで表現したアーティストである事だ。


 多くの男性は、女性シンガー&ソングライターの歌曲を、半ば笑いながら、半ば理解の外のものとして聴く。

しかし、その中に、男性の感覚に欠けた多くのもの、特に人間の孤独に関するものが描かれている事を知らない。

1964年生まれのネナは今年(2014年)50歳になる。

地元スウェーデンに帰り、随分長いブランクを取っていたが、今年久々に新しいアルバムを発表するという。

きっと僕に何かインスピレーションを与えてくれるはずだ。