音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Sheet Music. その2

2015.11.13

 週刊誌のキワモノ記事を最終的にまとめ上げる、という考えてもみなかったアルバイトで、先輩から借りてそのまま返さなかった万年筆が、結局、唯一の仕事道具になっていった事は前回で述べた。

この時の万年筆が極太書きのペン先で、ライター・ルームに雑然と置かれていたのが、愛のソウル伝導師バリー・ホワイトのアルバムで、そのバリーのアルバム・ジャケットのデザインが、万年筆の手書きで曲名を記しているというものだった事。

その時は、忙しい日常の中で、すぐに忘れてしまったどうって事はない事実が、40年以上も経って鮮明に思い出されるとは・・・これはどうした事だろう?

僕がいまだに、仕事で万年筆を、いや万年筆だけを頑固なまでに使っているのは、ひょっとしたら、その予想もしなかった深夜の出版社でのアルバイトに起因しているのかもしれないと、この頃、少し思うようになった。

 それが原因というのはあまりにキワモノだから、もう少しましな事を思い出そうと思案していたら、久しぶりに、ダリル・ホール&ジョン・オーツ(Daryl Hall & John Oates)が来日し、宿舎でほんの少し会う機会があった。

ジョンはとても気さくで記憶力のいい人で「おい、まだ万年筆使っているのか?」が挨拶だった。