音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

Sheet Music. その1

2015.10.24

 一日に一度は、10本程持っている万年筆のどれかを手に持つ。

原稿用紙に向かって文章を書くのが常、と言えばカッコいいが、そちらの方がむしろ少なく、メモをとったり、受け取った請求書に日時を書いたり、それだけではなく、ただ手に持ってボーッとしていたりする。

右手の指で万年筆を持つと、気持ちが落ち着く、という習性ができてしまったようだ。

ボーッとしている時に、よく思い出したり、時々プレイヤーにアナログLPを乗せて聴いたりするアルバムが、バリー・ホワイトの1980年のアルバム『Sheet Music(シート・ミュージック)』。

愛の伝道者、という異名を持ち、70年代のブラック・ソウル・ミュージックの異端児だったバリーの音楽は、厚いストリングスと軽快なビートを生み出すラヴ・アンリミテッド・オーケストラのサウンドと、独自にも活動する女声コーラス・グループのラブ・アンリミテッドのセクシーなヴォーカル・ハーモニー、そして、編曲だけではなく、時折、野太い声で参加するバリー自身のヴォーカルで構成されていた。

現在では、ソフト&メロウでセクシャルなソウル&ダンス・ミュージックは当たり前のもので、バリーの音楽に影響を受けて生まれたドナ・サマーの「愛の誘惑/Love To Love You,Baby」が、70年代の後半、大ヒット曲であるにもかかわらず、ラジオ・メディアで放送禁止だったなんて笑い話である。

しかし、原点、つまり、セクシー&エロティック・ソウルのはしりバリー・ホワイトの音楽は、少なくとも、有名ではあるが“キワモノ”としてあつかわれていた。