音楽評論家 大伴良則の音楽のまんよう

太陽の戦士たち.(その2) [2/2]

 一変したのは、'77年の年明けに発表された『太陽神/All'N'All』の画期的な成功だった。

'76年の暮れのある夜、当時のCBSソニーの担当ディレクターだった殿井さんが、渋谷のはずれの僕の部屋を訪ねてきて、『All'N'All』とだけ書かれた一本のカセット・テープと、ジャケットの原画見本だけを手渡し「とにかく、48時間以内にライナーノーツを書いてくれ。内容はまかせる」と言って、部屋のちらかり様に呆れながら帰っていったのが忘れられない。

それ以上に、原画見本を開いて、長岡秀星(ながおか しゅうせい)の、ダイレクトに古代エジプト王朝を描いたジャケットに驚いたのも忘れられない。

ディレクターの目から見ると、そこそこにソウル/R&Bを好み、また、当時ワールド・ミュージックと呼ばれていた第三世界のポップ・ミュージックも少しは知っているという理由で、僕を選んだのだろうが、長岡秀星のアート・アプローチが、マイルス・デイビスが、そう、1969年に発表したセンセーショナルな傑作『ビッチェズ・ブリュー/Bitches Brew』のジャケットの強烈なイラストを描いていたマティ・クラーヴァイン(Mati Klarwein)の絵柄やタッチに通じるものだ、と瞬間的に思った事もよく覚えている。

多分、EW&Fを結成した当時、最大の話題作だったマイルスの『ビッチェズ・ブリュー』を、モーリスが見たり聞いたりしていない訳がない、と深夜のボケた頭でも瞬時に感じたのだが、なにしろ時間が無く、そのあたりの直感は筆には全く伝わらなかった恥ずかしい記憶がある。(次回へ続く)